吹き溜まり
本や音楽やライブや映画やゲームのこと。
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『裸者と裸者』
『裸者と裸者㊤孤児部隊の世界永久戦争』
『裸者と裸者㊦邪悪な許しがたい異端の』 (公式サイト) 打海文三・著
の上下巻からなる長編小説。
年末にこの続編にあたる『愚者と愚者』を買ったものの、
登場人物が前作の裸者と被るようなので、これは前作を読まなければ、と
年末にアマゾンで注文していたものが、正月明けに届いてしまった。。。。
正直、読み始めるのは卒論を書き終えてからにしようと思っていたのに、
ちょびっと読み始めたら止まらなくなって、結局卒論ほったらかして読破してしまった。
ちなみにこの表紙、愚者に合わせたのか送られてきた本の装丁画が変わっていた。
私の大好きな帝国少年さんのイラストですよ♪
愚者の方も表紙が目を惹いても表紙買いはほぼしない私はむしろスルーだったのだけど、
(表紙が良すぎると、反対に疑う傾向が)
年末のTV番組にて2005年のミステリーに選出されていたのに影響を受けて、
評価も高いようなので購入に至る。でも今回は表紙の影響が大きいかも…
読み始めた当初、想像とはちょっと異なる感覚と、文章の読みやすさに、
随分と淡々とした流れだと思ったものの、
むしろその読みやすさが、ぐいぐいと私の手を次々とページを捲らせるに至った。
上巻では3人兄妹弟の長男の佐々木海人を主人公に物語が進んでいく。
海人が戦争に巻き込まれたのは僅か6歳の頃。
小学校に通うより前に混沌と荒廃の戦争が日常生活圏を侵し始めた。
戦争が始まってすぐに父親が死に、母親は連れ去られた。
海人は妹弟を守るべく、臨時学校へ通う妹弟とは別に、
大人たちに混じって残飯を取り合ったり、仕事を探して夜通し働き妹弟の生を守っていた。
無垢で強かな海人(カイト)、聡明な妹恵(メグ)、まだ幼い隆(リュウ)、
食料、生活場所、金、まだ守られ与えられるべき時に起こった悲劇が、
様々な経験を海人に強制し、それに翻弄されていく。
目を見張るべきはやはり海人のキャラクターではないだろうか。
小学校の教育さえ受けていない海人は、セリフの殆どが平仮名である。
読み手としては、少しその部分がカタコトに読んでしまって難点だった。
もちろん幼い妹弟もそうなのだが、
時が経つとその海人の様に学のない孤児たちの平仮名の会話部分が顕著になる。
幼く、無垢なままに、武装兵に拉致され、目の前で起こる凄惨な出来事に、
それでも、心は変わらず、ただ戦争の現実と残酷さと、
生きていく為に取る行動を理解していく海人に、何とも言えず圧倒される。
軍に入って、次第に階級が上がり、自分に忠誠を誓う仲間が増えても、
佐々木海人は佐々木海人のままで、
それでも彼の手は否応にも他の生をいくつも終わらせた。
一度も狂気を伴った事が無いわけではない、母や、仲間を思って憎悪を感じることもあった。
しかし彼はそれに囚われることは無かった。
目の前で人が殺されることに、震え、怯えていた海人が、
いつの間にか戦闘を当たり前のように行うに至る経緯と付随する流動的な状況。
彼の、無垢さと残酷さが混在するキャラクターが、
著者の作り上げた世界で独特な雰囲気を出していると思う。
下巻では双子の姉妹、月田桜子・椿子を主人公に、上巻とは異なる情景が描かれる。
海人に庇護された現在の生活に窮屈を覚え、自ら戦場で生きることを選択した姉妹。
聡明で、哲学的な彼女たちは、しかし奔放で野生的な強さを備えていた。
その反面、乱れた性の趣味を持っていたが、それが彼女たちのキャラクターである。
現実的で冷めた物言いをすることの多い彼女たちだが、
ふとした海人や他の仲間たちからの言葉に感慨を受けたりと、人間味がある。
それよりも、彼女たちの会話を聞いていると、頭の回転の良さとカッコよさを感じた。
海人はどうやら美青年に成長したらしく、言葉遣いも大人っぽくなっていた。
あと、主人公に対立や敵対する立場のキャラクター描写が極端に少ない。
完璧なまでに、視点が主人公側から描かれている。
その為、敵に苛立ったり憤ったりする感覚があまり読書中に起こらなかった。
それほどに人物として描きがないのだ。
そして主人公側のキャラクターは全部素敵な人ばかり。
物語の終わ際、一見明確でなくともこれからの日本に道ができたと思った矢先のテロ、
そして失った尊い命。
続編を望ませる終わり方で、現在その続編の愚者が既刊で良かったと思った。
けども、流石に愚者は卒論が終わってからにします;;
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