吹き溜まり
本や音楽やライブや映画やゲームのこと。
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『愚者と愚者』
『愚者と愚者㊤野蛮な飢えた神々の叛乱』
『愚者と愚者㊦ジェンダー・ファッカー・シスターズ』 (公式サイト)
打海文三著の『裸者と裸者』の続編となる本作。
前作の裸者が、面白くないことは無いけど、何か違うなと趣向から外れる感覚があったが、
愚者の方は戦局がめまぐるしく、曖昧なそれぞれの存在の流動的な事物に、
面白さとはらはら感と衝撃で、前作より面白いと思った。
上下巻の構成は前作同様。
上巻ではカイト側、下巻では椿子側を描いている。
つづきは裸者のネタバレから始まるのでご注意。
前作にて一時終結した祝杯の最中のテロで、
ンガルンガニの幹部・森まりと、月田姉妹の片割れ・桜子が死亡。
その後たった2Pほどで埋葬風景が描かれ、椿子のセリフと共に唐突な終わりを見せた。
戦争は終わらなかった。
もちろん終わりそうでも無かった。
むしろ状況は性的マイノリティの中でも女性蔑視を含んだ男根主義が林立し始め、
戦地では多くの部隊が衝突、殲滅、撤退を繰り返し、死傷者は壮絶に増えていった。
戦況が本当にめまぐるしい。
男根主義と外国人排斥を掲げる〈我らの祖国〉に加えて、
ゲイ・ヒロイズムを掲げる〈黒い旅団〉が現れると、見る間に無視できない勢力になり、
ゲイの男を狙ったテロに怯えた人間の脱走が続出。
しかも海人が属する常陸軍から状況打破の為〈ゲイ・解放軍〉が独立。
そうこうしているうちに、〈鉄兜団〉が派生し、小競り合い。読んでる方も必死;
そんな中、かつて中隊長暗殺に関わったカイト戦友である田崎俊哉の裏切りが起こる。
俊哉はカイトが率いる孤児部隊の主要メンバーの5人のうちの一人だった。
正直私もショックだった…。瞬間的にはもしかして偽装かも、と思ったのも束の間、
考えてみれば伏線はばっちり直前の事件があったわけで…
椿子率いる〈パンプキン・ガールズ〉らにも死傷者が多数出ている時点で偽装は皆無。
カイトの苦悩と怒りが俊哉に向かい、彼らが最後に交わしたのが、
本格的な戦闘衝突が開始される前、電話越しに裏切りを詰問した会話、というのが切ない。
俊哉が起こした虐殺じみた惨劇の責任から俊哉を守った海人。
事実上左遷で周囲を黙らせ、他の追求からも守った。その結果の悪夢。
自責の念と、誠実な怒りで、俊哉を許さないと行った海人。
お互いの信念は永遠に交わらないと言った俊哉。
でも、もしかしたら俊哉は死に場所を決めただけなのかもしれない。
狂気に囚われ虐殺行為を行ったときも俊哉は海人の身だけは案じて行動していたし、
俊哉のかつての身近な部下も、俊哉は海人から離れた場所だから裏切れたと言っている。
お互いを戦友として、仲間として、思う気持ちは確かにあった。
結局俊哉は敗北し、海人が再び俊哉と再会したのは、
田舎の一軒の家の中で、拳銃自殺した俊哉の死体だった。
椿子が、
「孤児部隊司令官として必要な豪胆さと、嘆きたくなるほどの愚直さを持ち合わせている」
と称したカイトを考えると、この仲間の裏切りと死は海人にとって相当辛かったと思う。
と書いていくとキリがない気がするので…
下巻になると〈パンプキン・ガールズ〉を中心に、多勢力が戦闘を繰り返しながら、
同盟や協定、叛旗や分解などを繰り返し、戦況はシリアスに急激に進行する。
ただし何にせよ椿子が戦闘中にも風俗遊びをするくらいだから、
ビジネスを最優先に快楽と戦争を興奮で買ってるようなものだった。
そんな〈パンプキン・ガールズ〉も最終的に主要メンバーのビリーを失う大きな戦闘を境に、
停戦協定が〈我らの祖国〉と〈常陸軍ほか同盟軍〉の間で結ばれ、終幕となる。
前作よりも唐突な終わりだった気がする…;
何よりこの後がとても気になるし。
下巻になると海人の登場回数が減るのは分かっていたけど、
後半の前面衝突の際とか終わりとかに全く出てこないのが私的に泣;;
海人の口調も大分変化しているものの、
親しい人との会話では拙さが残るのがとても愛しい。
あと本作で重点的に描かれるのが人間の本質など無い、という椿子の概念じみた考察だ。
自分の属する性的マイノリティへの嫌悪
自分に反する性的マイノリティへの嫌悪
人間の再定義
男であること、女であること、
男でないこと、女でないこと、
差別化でしか自己を正当化できない愚者たち
もちろん一概には言えない部分であるし、題名にもなっている愚者とは、
嘆くべき愚かさであり、愚直さであったり、
憎むべき、愛おしむべき愚かさであったりするのだと思う。
こういう戦時中の社会的状況における倫理的な欲望が、
戦況と同時に進行するのもこの本の特徴だと思う。
読んでる間は奇妙で残酷な世界感に浸れる作品でした。面白かったよ。
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