吹き溜まり
本や音楽やライブや映画やゲームのこと。
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『スロウハイツの神様』/辻村深月
登場人物のチヨダ・コーキの著作である『V.T.R』(辻村深月)も続けて読もうと、
本棚から選んだこの作品。
はー、参った。ちょっと間を開けて後に読もう。
凄く良かった。
面白いとか、展開に騙されたとか、
私の読書、その他エンターテインメントにおける評価って、
面白いか、面白くないか、でほぼ二分される。
『スロウハイツの神様』も、面白かったことに変わりはないけれど、
それ以上に、【凄く良かった】という方がしっくりくる。
言葉としてはあまりに飾り気のない賛辞というのも疑われる言葉。
それでも、登場人物を愛しく思い、途中涙しそうになるくらい、
この物語は凄く良かった。
読み始めはてっきりミステリと思いこんでいた。
集団自殺の現場でゲームのように御互いを殺しあった凄惨な事件。
その開催者が傾倒していた小説の作者、チヨダ・コーキ。
小説の冒頭は「チヨダ・コーキの小説のせいで、人が死んだ」。
どう考えてもミステリかと思う。
ましてや著者のメインジャンルはミステリであるし。
でも、上巻を読み終えても誰か死ぬわけでもなく、人間関係の事件はあれど、
命にかかわる事件は一向に起きる気配がない。
しかし、事件がなくても、【スロウハイツ】での出来事に目が離せなくなる。
気の合う者同士で古い旅館であったアパートに住み、
それぞれがクリエーターであり、強い、弱い人間であり、
なんてこんなに愛おしい。
物語の終わりに近づくとき、まだ彼らを眺めていたいと強く思った。
私の想像上で確実に息づく彼ら。
私もこうして小説を好んで読んでいる。
赤羽環もチヨダ・コーキの小説で生きることを諦めなかった。
私にとってのチヨダ・コーキの作品は、多分上遠野浩平作品かと思う。
学生の頃夢中になって読んだ彼の作品を読まなくなって久しい。
つまらなくなったとか、興味が失せたとかはなかったはずなのに、
いつの間にか、気付いたら。
最も、この状況は赤羽環にしてみたら罵倒されそうだけど。
彼女はチヨダ・コーキ作品を求め続けた。
コーキ自身が、著書を時代を切り取った、期間限定のものとし、
ある年齢になると自然に卒業されてしまう作品との評価を理解していたにも関わらず、
赤羽環はそうではなかった。
彼らの幸せを心から願っている。
エピローグがなければ、いつかまた彼らに会いたいと思ったところだが、
もう、覘くのは遠慮しよう。
エピローグをの最後を読んだ私は、
コーキが環の作品への感想を述べた時の、
狩野のあの、歓喜。
やっぱりまだ読んでいたかった。
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